はじめに
Clash の TUN モード は、システム全体のトラフィックを仮想ネットワークインターフェース(TUN デバイス)経由で処理する高度な機能です。従来の HTTP/Socks5 プロキシ設定では対応できなかった、ブラウザ以外のアプリケーション(コマンドラインツール、ゲーム、特定の企業向けソフトウェアなど)の通信も透過的に代理することができます。
しかし、TUN モードを有効にするだけでは不十分な場合があります。特に Fake-IP 機能を併用する際、設定が不適切だと「DNS 漏洩(DNS Leak)」が発生し、プライバシーが損なわれたり、特定のサイトへのアクセスが制限されたりすることがあります。また、ネットワークパケットが無限にループする「回ループ(Routing Loop)」は、システム全体の接続を断絶させる致命的な問題です。
本記事の目的
2026年現在のネットワーク環境に基づき、Clash TUN モードの落とし穴を技術的に解説し、実用的な解決策を提示します。
1TUN モードとシステムプロキシの違い
多くのユーザーが最初に疑問に思うのは、「システムプロキシ設定(System Proxy)」と「TUN モード」の違いです。
- システムプロキシ: OS の設定で `http://127.0.0.1:7890` のようなアドレスを指定します。これに従うかどうかは各アプリケーションの「善意」に依存します。例えば、`curl` や `git` は環境変数を設定しない限り、このプロキシを無視することが多いです。
- TUN モード: 仮想的な LAN カードを作成し、OS レベルで全ての IP トラフィックをそのカードに流し込みます。アプリ側がプロキシに対応している必要はなく、強制的に Clash のルールエンジンを通すことができます。
TUN モードを使用することで、ICMP(Ping)や UDP 通信(オンラインゲーム、VoIP)もプロキシ経由にすることが可能になり、より完全な「ネットワークの自由」が実現します。
2Fake-IP の動作原理とメリット
Clash の DNS 設定には `real-ip` と `fake-ip` の 2 種類がありますが、TUN モードでは Fake-IP が強く推奨されます。
Fake-IP モードでは、アプリがドメイン名を解決しようとした際、Clash は即座に仮想的な IP アドレス(例:198.18.0.x)を返します。この時点ではまだ実際の名前解決は行われていません。アプリがその仮想 IP に対して通信を開始した瞬間、Clash はどのドメインへの通信かを判断し、リモートサーバー側で実際の DNS 解決と接続を行います。
Fake-IP の利点
- 超高速な接続開始: ローカルでの DNS 解決を待たずに通信を開始できます。
- DNS 汚染の回避: ローカルの ISP による DNS 遮断の影響を全く受けません。
- 完全なルールの適用: ドメイン名に基づいた正確な分流が可能です。
3DNS 漏洩の正体と特定方法
DNS 漏洩とは、プロキシを使用しているにもかかわらず、DNS クエリ(どのサイトを見ようとしているかという情報)が暗号化されずにローカルの ISP サーバーに送信されてしまう現象を指します。
TUN モード環境下で DNS 漏洩が発生する主な原因は、OS の DNS 優先順位 です。Windows や macOS は、物理インターフェースの DNS サーバーを優先して使用しようとする傾向があります。
漏洩のチェック方法
ブラウザで dnsleaktest.com にアクセスし、「Standard Test」を実行してください。もし自分の契約している ISP(NTT, SoftBank, etc.)のサーバーが表示された場合、DNS 漏洩が発生しています。
セキュリティリスク
DNS 漏洩を放置すると、プロキシ経由でアクセスしているサイトの履歴が ISP に筒抜けになり、プライバシー保護の目的が果たせなくなります。
4回ループ問題と解決策
TUN モードにおいて最も厄介なのが 回ループ(Routing Loop) です。これは、Clash 自体が生成するプロキシサーバーへのパケットが、再び TUN デバイス(Clash)に吸い込まれてしまうことで発生します。
パケットが「自分自身」に無限に送られ続け、CPU 使用率が 100% になり、最終的にネットワークがクラッシュします。これを防ぐには auto-route、auto-detect-interface、および適切な bypass 設定が必要です。
- Auto Detect Interface: Clash が物理的なデフォルトゲートウェイを自動認識し、プロキシ通信を TUN ではなく物理回線から出すようにします。
- Bypass: プライベート IP アドレス(192.168.x.x など)を TUN モードの対象外(Direct)に指定します。
52026年版 最適な YAML 設定
以下に、DNS 漏洩を防ぎ、回ループを回避するための最新の TUN モード設定例を示します。Clash Verge Rev や Mihomo コアを使用している場合に最適化されています。
特に strict-route: true を設定することで、OS が TUN デバイス以外の DNS を使用することを強制的に禁止し、DNS 漏洩を根絶することができます。
まとめと Clash の優位性
2026年現在、多くのプロキシツールが存在しますが、Clash(特に Mihomo コア)が提供する TUN モードの安定性と柔軟性は群を抜いています。他のツールと比較した際の Clash の優位性は以下の通りです:
- きめ細やかなルール制御: ドメイン、IP 範囲、プロセス名、さらにはパケットのメタデータに基づいた分流が可能です。
- マルチスタック対応: ネットワーク環境に応じて
gvisorやmixedスタックを切り替え、最高のパフォーマンスを引き出せます。 - エコシステムの充実: Clash Verge Rev などの優れた GUI クライアントにより、高度な設定も視覚的に管理できます。
適切な設定を施した Clash TUN モードは、単なる回避ツールではなく、あなたのインターネット体験を一段上のレベルへ引き上げる「ネットワーク・オペレーティング・システム」となります。