在宅勤務でClashを使う目的
在宅勤務では、メールや社内ポータルのような国内向けサービスだけでなく、Zoom、Slack、Google Workspace、Microsoft 365 など、複数のクラウドサービスへ同時に接続します。すべての通信を同じ経路に流すと、国内サイトまで遅くなったり、ビデオ会議中に音声が途切れたりすることがあります。
そこで役立つのが、通信先ごとに経路を分ける Clash のルール機能です。仕事に必要な海外サービスだけをプロキシ経由にし、国内の銀行、自治体、社内VPNなどは DIRECT で接続することで、速度と安定性のバランスを取りやすくなります。本記事では、Clash Verge Rev や Mihomo を想定し、在宅勤務向けの実用的な分流設定を紹介します。
この記事の目標
Zoomの音声・映像とSlackのメッセージを優先しながら、国内サービスを不要にプロキシへ送らない構成を作ります。
なお、Clashは通信経路を制御するクライアントであり、プロキシサーバーそのものを提供するものではありません。利用前に、信頼できるプロバイダーのサブスクリプションと、業務利用が許可されたネットワーク環境を用意してください。
1通信を分ける基本設計
最初に、どのサービスをプロキシへ送るかを整理します。アプリ名だけでルールを作るのではなく、実際に接続するドメインを基準にすることが重要です。ZoomやSlackは、ログイン、API、静的ファイル、画像、ファイル保存などで複数のドメインを利用します。
| 通信の種類 | 推奨経路 | 理由 |
|---|---|---|
| Zoomの会議・認証 | プロキシ | 接続の安定性と地域ごとの経路を優先するため |
| Slackのワークスペース・ファイル | プロキシ | メッセージ、画像、添付ファイルの接続先をまとめて安定させるため |
| 国内の行政・金融・社内サイト | DIRECT | 不要な迂回を避け、速度とアクセス互換性を保つため |
| 広告・既知の追跡ドメイン | REJECTまたは既存ルール | 業務中の不要な接続数を減らすため |
ルールの順番にも注意が必要です。Clashは上から順番に条件を確認し、最初に一致したルールを適用します。広すぎる GEOIP や MATCH を先に置くと、ZoomやSlack向けの個別ルールが無視されるため、サービス指定のルールを上部に配置してください。
業務ネットワークの注意
会社指定のVPN、認証基盤、ファイルサーバーは、勝手にプロキシ経由へ変更しないでください。社内IT部門が指定するドメインやIPは、専用のDIRECTルールとして優先的に登録します。
2実際に分流ルールを設定する手順
ここでは、Clash Verge Revのプロファイルを直接壊さずに、Merge設定や設定ファイルのルール欄へ追加できる形を示します。プロバイダーによってグループ名が異なるため、例の WORK は、実際のプロキシグループ名に置き換えてください。
- Clash Verge Revを起動し、「Profiles」で現在使用しているプロファイルを確認します。
- 元のプロファイルを直接編集する前に、バックアップを保存するか、Merge機能用の小さなYAMLファイルを作成します。
- プロキシグループ名を確認し、以下のルール内にある
WORKをその名前へ変更します。 - 設定を反映した後、System ProxyまたはTUN Modeを有効にします。ブラウザーだけでなくデスクトップアプリも制御する場合は、TUN Modeが有効です。
amazonaws.com や googleapis.com はZoomやSlack以外のサービスも利用する可能性があるため、環境によっては広すぎる指定になります。接続ログを確認し、業務に不要なドメインまでプロキシへ送っている場合は削除してください。より安全な方法は、必要なホスト名だけをログから確認して追加することです。
接続ログでルールを確認する
会議やSlackを実際に使いながら、Clashの「Logs」または「Connections」を開きます。Zoom関連の接続が WORK に入り、社内サイトや国内ニュースサイトが DIRECT になっているかを確認してください。想定外の通信が別のグループへ入る場合は、ドメインルールの位置を上げるか、より具体的な DOMAIN 指定に変更します。
反映されない場合
設定変更後も古い経路が残る場合があります。ZoomやSlackを完全終了し、Clashの接続を再起動してから再テストしてください。ブラウザーのDNSキャッシュやアプリ内キャッシュが原因になることもあります。
3DNSとZoomのUDPを調整する
ルールが正しくても、DNSの応答が遅いとアプリの起動やログインに時間がかかります。Mihomoでは暗号化DNSやFake-IPを利用できますが、社内VPNや一部の業務アプリがIPアドレスを直接扱う環境では互換性に問題が出る場合があります。まずは現在の動作を確認し、問題がなければ段階的に変更してください。
fake-ip-filter には、家庭内NAS、プリンター、社内システムなど、ローカル解決が必要なドメインを追加します。設定後に社内サイトだけ開けなくなった場合は、Fake-IPを一時的に無効化して原因を切り分けると安全です。
Zoomの会議はUDPを多用するため、選択したノードとプロバイダーがUDP転送に対応しているか確認してください。UDP非対応のノードでは、接続自体はできても映像品質が落ちたり、音声がTCPへフォールバックして遅延が増えたりすることがあります。Clashの接続画面で、会議中の通信が大量に失敗していないかも確認しましょう。
音声品質を優先する設定
通信が不安定なときに、ノードを頻繁に自動切り替えするとZoomのセッションが切断される場合があります。会議中は遅延測定だけでなく、パケットロスと接続の継続性を優先してください。
4速度テストと継続的な見直し
設定が完成したら、単に速度測定サイトの数値だけで判断せず、実際の勤務シナリオで確認します。朝の始業前、昼休み、夕方など混雑しやすい時間帯に、同じ条件でテストするとノードの品質を比較しやすくなります。
- Zoom:テストミーティングで音声の遅延、映像の停止、画面共有の滑らかさを確認します。
- Slack:メッセージ送受信、画像表示、ファイルのアップロードとダウンロードを試します。
- 国内サイト:社内ポータル、銀行、通販サイトがDIRECTで開き、ログイン状態が維持されるか確認します。
- 切り替え時:プロキシを停止した場合でも、通常の国内通信へ戻れるかを確認します。
ノードを選ぶときは、最小のping値だけを追いかけないことが大切です。短時間の測定値が良くても、会議中にパケットロスが発生するノードは実用的ではありません。複数のノードを順番に試し、30分程度の会議とファイル転送を含めた結果で判断しましょう。
| 症状 | 確認する箇所 | 対処 |
|---|---|---|
| Zoomの音声が途切れる | UDP対応、パケットロス、ノード混雑 | 別ノードへ固定し、会議中の自動切替を避ける |
| Slackの画像だけ遅い | Slack CDNやファイル用ドメイン | 接続ログから不足しているDOMAIN-SUFFIXを追加する |
| 国内サイトが開けない | ルール順序、DNS、TUN設定 | 社内・国内ドメインをDIRECTへ明示する |
| 設定後に全体が遅い | 広すぎるプロキシ指定 | 不要なワイルドカードを削除し、対象サービスを限定する |
サブスクリプションを更新したときは、プロキシグループ名や既存ルールが変わっていないか確認してください。プロファイルの更新でMerge設定が上書きされる構成の場合は、設定ファイルを別途保存し、反映後のルールを毎回チェックします。これだけで、突然SlackだけDIRECTになるといったトラブルを早期に発見できます。
安全な運用のまとめ
ZoomとSlackを必要な範囲だけプロキシへ送り、社内・国内サービスはDIRECTに固定します。会議前にログとUDP対応を確認し、設定変更後は必ず実際の業務操作で検証してください。
Clashの分流は、一度設定すれば完全に放置できる機能ではありません。サービス側のドメイン変更、プロバイダーのノード品質、家庭のWi-Fi環境によって結果は変わります。小さく変更し、ログと体感の両方を確認することが、安定した在宅勤務環境を維持する最も確実な方法です。